公園通り動物病院 blog

開院7年目の動物病院です。病気の解説のほか、院長がどんなことを思いながら仕事をしているのか、あるいは診療にあたってのポリシーのようなものなどを飼い主様にお伝えし、ご理解いただく一助となればと思います。おつきあい頂ければ幸いです。更新は少な目です。。。病院HPはこちら www.parksteet-ah.com

膿胸

以前、膿胸で入院してた猫が、別件で久しぶりに来院されました。

一応は元気そうだったのでその子の話です。

 

呼吸困難の原因として、胸腔の内側に水が貯まる胸水貯留はさまざまな原因でおこります。例として、心臓病、胸腔内の腫瘍、感染症など。

膿胸は胸の中に膿が貯まり、肺の拡張が妨げられ呼吸困難となり、かつ細菌感染によるショックを合併していることも多く、死亡率も高い病気です。

 

多くがゼーゼーしている、息が苦しそうなどの症状を訴えます。 

とくに猫の場合、口を開けて呼吸している、というのはそれだけで異常事態であることが多いです。

 

呼吸困難の患者さんが来院した場合、一般的な流れとして

まず可能な状況であれば、胸部X線を撮ります。

それで胸水を疑う初見があれば、エコー検査で液体貯留を確認し、胸腔穿刺をして胸水の性状を確認します。

この時点で胸水が膿様であることから、たいてい診断に迷うことは多くありません。

 

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初診時X線

 

しかし治療はなかなか厄介です。

 

体の中のどこかに膿が大量に溜まっている、という状況は動物の医療ではしばしば見かけます。

体表部であれば皮膚を切開し膿を出してきれいに洗う、ということは容易です。

しかし胸の中はそう簡単にはいきません。

 

まず、膿を出すためのルートを確保します。

そのためドレーン(排液)チューブを設置します。

細い管ではすぐに詰まってしまい、そもそも膿のようなドロドロしたものは抜けないので、ある程度太いチューブを入れなければなりません。

しかし太いチューブの設置は痛みを伴います。

そのため全身麻酔で設置を行うこともしばしばあります。

 

敗血症性ショックになっている場合もあり、麻酔をかければ死ぬこともあります。

まずは酸素吸入などをしながら、無麻酔あるいは局所麻酔で、細い針で胸腔穿刺で膿を出しつつ、状態が安定化してからドレーン設置に進みます。

その「安定化した」かどうかの見極めに大変な葛藤があるわけです。

ドレーン設置が不適切だと空気が入って気胸になる可能性もあります。

 

 

ドレーンが入ったら数日間はしっかり胸腔洗浄を行い、回収した液がきれいになってきたらドレーンを抜きます。膿の中には細菌がたくさんいるので、どの抗生物質が有効か調べることは必須です。

 

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ドレーンから胸腔洗浄の図(顔はモザイクです^^)

 

今回の子は膿胸自体は治ったのですが、途中から腎臓病が現れてきてしまいました。

全身性の感染症で腎臓が障害されたのかもしれません。

 

 

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退院後のX線

 

 

退院後、表向きは元気に生活していますが、慢性腎臓病の継続治療が必要になりました。

 

わりと猫に多いのですが犬でもまれに見ます。

原因は細菌感染ですが、なぜ感染を起こしたのか?

諸説ありますが、実際に飼い主さんに伺ってもよくわからないことがほとんどです。

ケンカによる咬傷は有力な一因と言われます。

 

予防は困難かと思いますが、とくに猫の呼吸異常に関しては、様子を見過ぎるのは厳禁です。早期発見・治療に尽きると言えます。