公園通り動物病院 blog

開院4年目の動物病院です。病気の解説のほか、院長がどんなことを思いながら仕事をしているのか、あるいは診療にあたってのポリシーのようなものなどを飼い主様にお伝えし、ご理解いただく一助となればと思います。おつきあい頂ければ幸いです。病院HPはこちら www.parksteet-ah.com

多飲多尿の話

開業にあたり勤務先を退職する際、担当していた患者さんは、同僚の先生方に引き継ぐことになります。

経過が安定していれば安心して引き継げるわけですが、中にはそう都合よくいかない子もいました。

そのような懸案の一例について最近、当時の同僚のS先生が良いニュースをくれました。

今回は多飲多尿とその診断に苦慮した症例についてです。 

 

10才くらいのMix犬で、当初の来院理由は多飲多尿でした。

 字のごとく飲水量、尿量の増加という意味ですが

長く動物を飼われている方でも意外と意識しておられないことが多いように感じます。

多飲多尿の原因は、以下のようなものが代表的です。

ここから問診や各種の臨床検査を行い鑑別していくことになります。

 

この患者さんの場合は血液検査で重度の高カルシウム血症がみつかりました。

しかし、その原因がよくわからないのです。

 

血液検査、X線、超音波検査等行うも、さしたる異常は見つかりません。

当時の勤務先はCTも導入していたので、麻酔下で全身CTも撮り、さらに画像診断の専門医に依頼し、読影をお願いしたのですが、やはり異常なし。

上皮小体ホルモン (血液中のカルシウム濃度を調節するホルモン) にも異常ありません。

この時点で消去法的に、原発上皮小体機能亢進症、あるいはOccult  Lymphoma(隠れリンパ腫)のいずれかが疑われました。

 

絞り込んだのは良いものの、ただひとつ大きな問題がありました。

この2つの疾患はその予後が全く異なるということです。

 

前者は(上手くいけば)完治も望めます。

後者はリンパ系の悪性腫瘍であり、短ければ数ヶ月(!)の命とも考えられます。

 

このように、鑑別診断の最後に残ったものが、全く違う病気の場合、当然ながら飼い主の方に納得していただくことが非常に難しくなってしまいます。

自分が患者、あるいは飼い主であれば どっちかはっきりしてくれないと気になって仕方がないはずです。

もちろん担当医としても、非常に悩ましいところです。

 

 幸いにも理解のある飼い主さんであったことと、患者本人は(多飲多尿のほかは)いたって元気であったことから、対症療法と定期チェックをしつつ様子をみていました。

いずれ必ず変化がでてくると予想していたので、それを逃さないよう待ち構えていたわけです。

 

 

しかし、一向に変化のないまま、自分の退職期限が来てしまい、長らく通院して頂いたにも関わらず、確証がないまま引き継がざるを得ませんでした。

 

 ところが先月、冒頭のS先生から知らせを頂きました。

要約すると

先月から上皮小体が腫れてきて、かつ内科的なカルシウム値のコントロールが困難になったため、片側の上皮小体を甲状腺ごと手術で摘出。

組織検査の結果は上皮小体腺腫。

現在のところ完治といえるかはまだ不明だが経過良好。

診断としては 原発上皮小体機能亢進症と考えられる。

 

つまり良性の腫れ物であり、ホルモンが過剰になり高カルシウムとなり、結果的に多飲多尿になっていたわけです。

リンパ腫ではなかったことと、数ヶ月にわたりながらも診断が(比較的良い方に)出たことで安堵したところです。粘り強く診断、治療に導いてくれたS先生に感謝です。

 

 

 タイトルにもどって

今回のケースは飼い主の方が、飲水量の増加にいち早く気づかれたことが幸いでした。さもなければ腎障害を合併し、予後不良となっていた可能性もありました。

 

 

一般の方は 多飲多尿 という言葉、どのくらい認識されているものでしょうか?

診察室で「タインタニョウ」と言って、そのまま通じる人は少数です。

大抵すぐに「お水の飲み方は…」などと言い直すのですが、未だ十分に周知されているとは言えないようです。

 

気づいていても「もう年だから」と様子をみてしまったり、治らない病気と決めつけてしまい、治療のタイミングを逃し、悔やむこともしばしばあります。

 また、若いからといって無関係とも限りません。

 尿崩症のような病気は若い時に気づかれるのがほとんどです。

いずれにせよ定期健診で発見可能なものも多いのです。

 

 

とっつきにくい症例紹介であったかもしれませんが

より多くの飼い主さんに、多飲多尿とその原因が周知される一助になればと思います。