介護について
前回の更新からかなり間が開いてしまいました。
読んでいただいている方には申し訳ありませんでした。
基本的には不定期更新ですが、もう少し頻繁に書いていきたいと思っています。
先日、といってもすでに数ヶ月前のことですが、千葉での勤務医時代の飼い主さんからビデオレターを頂きました。
元同僚が北海道旅行のついでに立ち寄ってくれて、その時に飼い主さんから預かってきてくれたのです。
その方が飼われていたのは老齢のラブラドール•レトリバーでした。
当初は ふらついてまっすぐ歩けないという主訴で来院されました。
神経学的な所見から脳疾患を疑いCTを撮ったところ、脳に髄膜種という腫瘍が見つかりました。(*)
(*)髄膜種
基本的には良性腫瘍であり、人医療では外科的に完全切除できれば完治も見込めるようです。しかし動物医療において、開頭手術はいろんな意味合いでハードルが高く、簡単には行えないのが現状です。今回は手術はしていないので組織検査は行っていないため、あくまで『髄膜種疑い』であり、他の病気である可能性もあります。
様々な事情から、手術は希望されなかったため、効果は不明ながら内科的に脳圧を上げないよう抑えていく方向で経過観察となりました。
飼い主さんはとても愛情深いご夫婦で、手厚いケアをされながらなんとか日常生活を送っていました。途中、ご主人が腰を痛めるなど、かなり大変であったようです。
しかし、数ヶ月で完全に寝たきりになってしまいました。年末の寒い季節でした。
やはり、徐々に腫瘍が増大し、脳を圧迫していたのであろうと考え、薬を増やしたり、往診で床ずれのケアをしに行ったり、食餌が採れない時は点滴をしたりしていたのですが、当時は正直なところ回復の見込みはほとんどないであろうと思っていました。
そんな日々が数週間たったころ。
「なんとなく自分で起き上がろうとしている」と飼い主さんからのお言葉。
そこからじわじわと復調の兆しを見せはじめ、1ヶ月ほど経った頃には完全に自力で歩き回れるようになりました。
まさか再び歩いて通院してくることはないだろうと思っていたので、実際に目の当たりにしたときは非常に驚きました。
ビデオレターの中でも、嬉しそうにお父さんの缶ビールを口に咥えて持ってくる様子がおさめられていました。寝たきりだった当時の面影は全くありません。今は薬も完全に止めているとのことです。
率直に言って、あまり治療が効果を奏していたとは思えず、自力で治した(縮小した、または一時的にバランスが取れた)と考える方が妥当かと思うのですが、あきらめず懸命に看護されていた、飼い主さんのがんばりがなければ、回復を見る前に亡くなっていたはずです。
これはかなり幸運な例外的なケースだと思います。いつまで良い状態が続くかもわかりません。しかし仮に一時的なものであっても、これだけの回復を見せられると、つくづく生き物の体の強さ、というものを考えさせられてしまいます。
近年は老犬介護などを専門に行うホスピスなども増えました。
しかし、様々な事情から介護ができないことを理由に安楽死などを相談されることもあります。
その是非をここで問うつもりなどはありませんが、
ご自宅の犬、猫が要介護となった、あるいは治る見込みのない病気になった時、時間的、経済的、体力的にどこまで頑張れるか(どこまでで終わりとするか)、中高齢の動物を飼われている方は、ご家族でも一度は相談しておくべきではないかと思います。
それらを考えるきっかけになれば幸いです。