クッシング
ここのところ来院が続いていたので、今回はクッシング症候群について。
犬の内分泌疾患では最もよく知られているものの一つです。
最近では飼い主さんが最初からそれと疑って来院されることも珍しくありません。
多飲多尿や脱毛などの皮膚症状のほか、体型の変化、糖尿病を合併することもあり、病状が進行すると突然死を起こすこともある病気です。
病気の詳細は当院ホームページにまとめましたので、(獣医療情報 | 札幌市西区八軒| 公園通り動物病院)ここではちょっと違う視点で書いてみます。
犬ではわりとよくみる病気ですが、ヒトではかなり珍しいようです。
ヒトの場合、中年の女性に多く、特定疾患(いわゆる難病)に指定されており、医療費の公費助成のある重い病です。患者数が少ないためか、うつやストレスと間違われ適切な診断を受けられていない患者さんも多いようです。
犬では5−8才以上に多く、メスにやや多く、好発犬種はありません。このあたりは共通してますね。
病態は下垂体腺腫といわれるものが多くこれもヒト、犬共通です。
下垂体から分泌されるコルチコトロピン(ACTH)過剰になり、これが副腎皮質機能を亢進させ、コルチゾールを必要以上に大量に出してしまうのです。
コルチゾールは生体がストレスに順応するために必要なホルモンで、我々が生きていくのに欠かせないものです。抗ストレス作用は身体・精神の両方に作用しますが、過剰になり様々な症状がでたものがクッシング症候群です。
身体的な症状は犬・ヒトともによく似ているので割愛します。
精神的な症状はどうでしょうか?
犬の場合、精神的に鈍になる、無気力になる、などと表現されます。しかしクッシングになる子は多くがシニア年齢であり、また病気の影響で筋肉も衰え活動性も低下しているため、純粋な意味での精神面への影響がどのくらいあるのかは疑問です。
猫はそもそもこの病気自体が非常に珍しく、精神面の詳細は不明です。
当院で一例いますが、いたって気の良い子です。
対してヒトの場合、コルチゾール値の異常による精神面への影響は絶大なようです。
つまり不適切なコルチゾールの作用で、すぐに体重が増える、ニキビができる、うつ状態になる、ストレスに耐えられずイライラするなど。また、引きこもりがちになり周囲の理解が得られにくく、社会生活が困難になる方もおられるようです。難病情報センターのホームページによると、うつからの自殺企図に注意、との一文も見られます。
自分の診療経験的には、クッシングでも(性格面で)元気いっぱいの子はたくさんいるので、このあたりは大きな違いなのかな、と思ったりもします。
しかし、この記事を書く前に人のクッシング病患者さんのブログなど拝読したのですが、日々大変な辛さを抱えてらっしゃるようで、この病気に対して違う視点でみるいい機会になりました。
犬のように気の向くまま食べては寝て、ストレスなく(?)生きられれば病状も安定するようですが、人は容易にそうはいかず苦悩されるようです。このあたりが犬で精神面の症状が乏しい理由でしょうか。
あるいは我々が認識できていないだけで、犬の患者でも本人(犬)にしかわからない、激しい感情の浮き沈みなどに悩まされているのかもしれませんが。
いずれにせよ、クッシングは治療することで症状を軽減できる病気です。
我々の治療行為が身体的のみならず精神的にも、改善をもたらしてくれればと改めて思いました。