フィラリア②
前回に続きフィラリア症について。
私が最初に動物病院に勤務した時、はじめてみた入院患者がフィラリア症でした。
よく憶えていますが、入社初日に出勤すると、ICUの酸素室の中にぐったりして横たわるシェルティーが…。
食事もとれず痩せ細り、体力の消耗に加えて腹水がたまりお腹の重さでほとんど動けなくなっていました。
心臓のエコー検査で大量のフィラリア成虫が認めらるのですが、呼吸状態が非常に悪いため麻酔を必要とする虫体摘出手術は難しいという状況。
そのため入院で呼吸と腹水の管理をつづけていましたが、治療の甲斐なく数日後、呼吸不全で亡くなりました。
フィラリア症によるいわゆる大静脈症候群です。
予防はここ数年していなかったとのこと。
これは10年以上前のことですが、フィラリア予防の普及率は今とさほど変わらなかったはずで、当時の先輩方も久しぶりに見たと言っていました。
別の病院勤務時のこと。
こちらは自分が担当した症例ではないのですが、
10才くらいの痩せた老犬が、後肢を引きずるとのことで来院しました。
触診やX線検査などでは異常を認めず、ただし高齢であることから健康診断も併せて実施したところ、フィラリア感染陽性がわかりました。
こちらも予防は全くしたことがなかったそうです。
跛行が認められるため鎮痛剤を処方し、ひとまず経過観察としたのですが、
その後、なぜか肢端が壊死を起こしてしまいました。
骨が露出し、腐臭がするようになり、当然痛みも激しいことから
原因不明ながら、疼痛緩和のためやむなく断脚手術となりました。
そしてその手術中。
後肢の筋肉を切断し、股関節を外したところで、大腿部の動脈から体長15~20cmのフィラリア成虫が出てきました。
大量に感染があったためなのか、本来心臓に寄生する成虫が、後肢の動脈に絡まり塞栓を起こしていたようです。
手術の最中に足の血管からフィラリア成虫を引きずり出しているさまが当時の自分には衝撃的で、今でも鮮明に憶えています。
2例目はかなり特異な例を挙げましたが、フィラリア症に関してよく言われるように
予防は簡単ですが、治療は困難な病気です。
投薬開始前の血液検査をしない病院も時々あるらしいのですが、検査をせず投薬を行い、万一フィラリア駆虫による副作用が起これば全身の血管塞栓が起こります。
足を失うだけでは済まない事態にもなりえます。
ガイドラインに沿った正しい予防を勧めていきたいものですね。