膿胸
以前、膿胸で入院してた猫が、別件で久しぶりに来院されました。
一応は元気そうだったのでその子の話です。
呼吸困難の原因として、胸腔の内側に水が貯まる胸水貯留はさまざまな原因でおこります。例として、心臓病、胸腔内の腫瘍、感染症など。
膿胸は胸の中に膿が貯まり、肺の拡張が妨げられ呼吸困難となり、かつ細菌感染によるショックを合併していることも多く、死亡率も高い病気です。
多くがゼーゼーしている、息が苦しそうなどの症状を訴えます。
とくに猫の場合、口を開けて呼吸している、というのはそれだけで異常事態であることが多いです。
呼吸困難の患者さんが来院した場合、一般的な流れとして
まず可能な状況であれば、胸部X線を撮ります。
それで胸水を疑う初見があれば、エコー検査で液体貯留を確認し、胸腔穿刺をして胸水の性状を確認します。
この時点で胸水が膿様であることから、たいてい診断に迷うことは多くありません。
初診時X線
しかし治療はなかなか厄介です。
体の中のどこかに膿が大量に溜まっている、という状況は動物の医療ではしばしば見かけます。
体表部であれば皮膚を切開し膿を出してきれいに洗う、ということは容易です。
しかし胸の中はそう簡単にはいきません。
まず、膿を出すためのルートを確保します。
そのためドレーン(排液)チューブを設置します。
細い管ではすぐに詰まってしまい、そもそも膿のようなドロドロしたものは抜けないので、ある程度太いチューブを入れなければなりません。
しかし太いチューブの設置は痛みを伴います。
そのため全身麻酔で設置を行うこともしばしばあります。
敗血症性ショックになっている場合もあり、麻酔をかければ死ぬこともあります。
まずは酸素吸入などをしながら、無麻酔あるいは局所麻酔で、細い針で胸腔穿刺で膿を出しつつ、状態が安定化してからドレーン設置に進みます。
その「安定化した」かどうかの見極めに大変な葛藤があるわけです。
ドレーン設置が不適切だと空気が入って気胸になる可能性もあります。
ドレーンが入ったら数日間はしっかり胸腔洗浄を行い、回収した液がきれいになってきたらドレーンを抜きます。膿の中には細菌がたくさんいるので、どの抗生物質が有効か調べることは必須です。
ドレーンから胸腔洗浄の図(顔はモザイクです^^)
今回の子は膿胸自体は治ったのですが、途中から腎臓病が現れてきてしまいました。
全身性の感染症で腎臓が障害されたのかもしれません。
退院後のX線
退院後、表向きは元気に生活していますが、慢性腎臓病の継続治療が必要になりました。
わりと猫に多いのですが犬でもまれに見ます。
原因は細菌感染ですが、なぜ感染を起こしたのか?
諸説ありますが、実際に飼い主さんに伺ってもよくわからないことがほとんどです。
ケンカによる咬傷は有力な一因と言われます。
予防は困難かと思いますが、とくに猫の呼吸異常に関しては、様子を見過ぎるのは厳禁です。早期発見・治療に尽きると言えます。