公園通り動物病院 blog

開院4年目の動物病院です。病気の解説のほか、院長がどんなことを思いながら仕事をしているのか、あるいは診療にあたってのポリシーのようなものなどを飼い主様にお伝えし、ご理解いただく一助となればと思います。おつきあい頂ければ幸いです。病院HPはこちら www.parksteet-ah.com

猫の横隔膜ヘルニア

生後2ヶ月齢の子猫が呼吸促迫で連れて来られました。

 

胸部レントゲンを撮ったところ、肝臓や腸管が胸腔内に飛び出している

横隔膜ヘルニアでした。

 

参考リンク:横隔膜ヘルニア(アニコムどうぶつ相談室)

http://www.anicom-page.com/labo/2009/04/post-127.html

 

 

この病気は必ずしも手術が必要というものではありませんが、少なくとも横隔膜が自然に塞がることはないため、何らかのきっかけがあれば呼吸困難が再発します。

飼い主の方もずいぶん悩んでおられましたが、 結果的にはブリーダーさんの提携病院で手術をしたそうで、現在も元気に暮らしているとのことです。

 

 

横隔膜ヘルニアといえば、勤務時代に診た忘れられない症例がいます。

はじめて自分で手術をした症例だったのですが、手術の適否やタイミングなどあれこれ、とても悩まされました。

 

連れて来られた方は正式な飼い主ではなく、近所に居着いているノラ猫だけど

なんとなく様子がおかしいので連れてきた、とのことでした。

 

初診時レントゲンでは横隔膜のつながりが認められず、腹腔内臓器が心臓のすぐ横にくっきりと写っています。

しかし問題はそれだけでなく、大きなお腹に子猫が4頭も妊娠しているのです。

超音波検査では子猫はいずれも生存中で、妊娠も末期かと思われる状態です。

それゆえに、 大きな子宮が腸や肝臓を圧迫し、横隔膜のヘルニア孔から胸腔内へ脱出し、ひどく呼吸を障害していました。

 

 

来院時は呼吸がひどい状態だったので、まずはそのまま酸素室に入ってもらい

内科的に改善できるかを見ていくことにしました。

 

呼吸はわりとすぐに落ち着いたのですが、食後や排便時などに(恐らく腸管が動く時に)悪化し、しばらくすると落ち着く、というのが繰り返されました。

ノラ猫ながらとても性格はフレンドリーで、呼吸が安定しているときはいつもゴロゴロとノドを鳴らしてすり寄って来てくれるような子でした。

 

さて、いつまでも酸素室に閉じ込めておく訳にもいきません。

手術を行う場合には何をするべきか、いつやるべきか。そもそも手術の必要があるのか。

そしてなにより妊娠中であることを考慮しなければなりません。

 

この時点で選択肢として

①横隔膜ヘルニアの整復手術のみ

②横隔膜ヘルニアの整復手術と同時に帝王切開

③横隔膜ヘルニアの整復手術と同時に子宮卵巣摘出

④出産を待ってのち横隔膜ヘルニアの整復手術

⑤手術しないで経過観察

 

現実的には②、③、⑤あたりだろうかと考えていました。

あとは飼い主さんの意向次第かと。

 

 

結論から言いますと ④ となりました。

と言ってもこちらが意図して出産を待ったわけではなく、自力で産んでしまったのですが。

 

出産した時のことは今でもよく覚えています。

 

仕事が終わったあと、ちょっと遅くまで居残りしていたのですが

ふと気になって見に行くと、猫のお腹に何やら黒いモノが。

そう、子猫です。

続いて遠くから見ていると、母猫がまた立ち上がり、あっさりと(?)2匹目の子猫を出産してしまいました。

この子を預かって以来ずっと気持ちが張りつめていたのですが、あまりのあっけなさにちょっと気が抜けてしまったのを憶えています。

 

 

( 案外と産めるものなんだな…。)

 

 

 

 いやいや、簡単に産めるはずはないのです。

 

横隔膜に穴が開いた状態で陣痛がきたら、産道を胎児が通るのに必要な腹圧がかけられない(いきめない)はずです。

また、腹圧が高まった場合、それにより肺が圧迫されて呼吸不全を起こし、死亡するリスクもあります。

 

 

実は、その時点での方針として

呼吸はやや不安定ながら、上記のような陣痛が来た時のリスクが大きいと考え

翌日には子宮卵巣摘出と同時にヘルニア整復を行うことを計画していました。

つまり③の選択です。

その場合、子猫は助かりません。

出産前に子宮ごと摘出することになりますが、母猫の生命を最優先とする場合( 連れてきた方もそれを希望されてました )それが一番現実的だと考えました。

 

 

それを察したわけでもないのでしょうが、母親の強さなのでしょうか。

見事に自力で(酸素室の中ではありましたが)出産を乗り越えてしまいました。

子猫は4匹中、1匹は死産でしたが他の3匹は元気に生まれ、後日、里親さんに引き取られて行きました。

 

結局、出産の数日後、呼吸がさらに安定した段階で、ヘルニア整復と避妊手術を行いました。

初めての手術でしたが、幸いに術後経過もよくスムーズに退院できました。

よかった。

 

 

こうして今思い返してみても

 手術に踏み切るタイミングや、出産のリスクなど反省点は多い症例です。

母子ともに亡くなっていた可能性も十分にあったと思います。 

 

 

ですが生まれた子猫達が、初めてのワクチン接種に来た時には、

出産前に無理をしてオペに踏み切らなくてよかった、としみじみ思いました。

 

 

横隔膜ヘルニア、意外と多いです。

より多くの方に知っていただければと思います。